藤子不二雄作品を中心とした、レトロ漫画・アニメに関しての調査・研究・ツッコミがメインです。


by fujiko-kei
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カテゴリ:初掲載と読み比べ( 1 )

安孫子先生のブラックユーモア作品で、『禁じられた遊び』という作品をご存じでしょうか?そう、『ぶきみな5週間』シリーズの第1週、「ひさえさんのおはか」のヤツです。

本作は、虫プロ商事発行『COM』'71年7月号に『白い童話シリーズ』の一環として掲載されました(この時点で『ぶきみな5週間』じゃないですが、この件については後述)。

『白い童話シリーズ』とは、雑誌『COM』に'71年1月から6月まで掲載(5・6月は合併号)された安孫子短編作品シリーズのタイトルで、作品は1月号から順に
■『ひっとらぁ伯父サンの情熱的な日々』、
■『わが分裂の花咲ける時』、
■『万年青』、
■『明日は日曜日そしてまた明後日も』、
■『ポルノを買いに』、
■『禁じられた遊び』
の6本。
単行本未収録でありながら異様に知名度の高い『わが分裂―』はこの雑誌の発表でした。


■完全版もある!?

で、『禁じられた遊び』ですが、普通ににこの話を読むと確かに怖いけど、なんか短くてあっけないなぁ…と思われる方がおられるのではないでしょうか?現に自分もそう思っていました。
ですが、実は『禁じられた遊び』には、本当に怖い、藤子A作品の中でベスト3に入るくらいの怖さを誇る「完全版」が存在したのです…。

ちなみに個人的BEST3の他のノミネート作品はいうと…『魔太郎がくる!!』の第2話『鉄のキバがひきさいた夜!』と短編『北京填鴨式』あたりでしょうか…。

本作は、比較的最近出た単行本では「ページがカットされた短縮版」がことごとく収録されています。現在のところ「完全版」を読むことができるのは、初出の『COM』以外では奇想天外社発行の短編集『藤子不二雄ホラー・ファンタジー劇場 ヒゲ男』だけとなっています。
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最近入手したものですが、それほど売れた単行本とも思えませんので、古書店でもなかなか見ることができません。短縮版が中公愛蔵版に収録されたのも諸事情による「偶然」ですので、もし愛蔵版への収録の機会がなければ、この単行本だけの収録という幻の作品になっていたでしょう…。


■完全版と短縮版の差

以下、大まかに完全版・短縮版の違いを纏めてみます。

頁数は、完全版が25頁なのに対し、短縮版は10頁
実に半分以上のエッセンスが失われることに。短縮版の方を読んで、話の構成・ストーリー展開が不自然に思えるのはこのためです。

トビラ絵。
左が完全版、右が短縮版(『ぶきみな5週間』仕様)です。
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頁数が限られているためか、短縮版は本編の1コマ目がトビラにかかってきています。また、短縮版は『ぶきみな5週間』化に伴って、トビラのレイアウトも『ぶきみな―』風のものに変更されています。

その後、序盤(金魚が死ぬ~墓を作る)のストーリー展開は、オリジナル版・短縮版共どちらも大きな違いはありません。

しかし、ここからがかなり違ってきます…。


短縮版には出てこないキャラクターが登場
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知恵遅れであるらしく、「ウ…」としか話すことができないらしいこのキャラクター。
名前は特に出てきませんが、初出時にはどこかで「タカシちゃん」と言う名前が付いていたようです(情報源:Wikipedia)。右画像で「あら…」の横が不自然に空いているのは、元々「あら…タカシちゃん」と言う台詞だったのではないでしょうか?
以下「タカシちゃん」と呼ぶことにします。

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タカシちゃん登場部分は短縮版ではすべてカット。頁数の問題もありますが、やっぱり、気違いネタがまずかったのかと思われます。



オリジナル版と短縮版での一番の違いは、マコが横浜の外人墓地に行くシーンです。この部分も短縮版ではすべてカット。
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こちらは表現等の問題ではなく、単に頁数の都合でのカットと思われます。
このシーンがあることにより、短縮版よりも、かなり不気味な印象に…。
がいじんぼちって とってもすてきなの…



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短縮版より、マコがさらなる標的を選んだシーン。塀から頭を出しているのはマコだけですが…。

これがオリジナル版ではこうなっていました。
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タカシちゃん隠蔽工作
原稿の切り貼り・書き換えの帝王、手塚治虫先生にも負けず劣らず、タカシちゃんは見事に消されてます。ちなみにヒサエさんの飼っていた鳥、ピピを殺したのもマコではなくタカシちゃん。



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マコに墓を作られるのは、短縮版では順にミッチー(金魚)・ミケ(猫)・キキ(リス)・ピピ(鳥)・ヒサエの5匹(人)でしたが、オリジナル版では「タカシちゃん」が持ってきた死んだ犬の死体、ポチが入り、ミッチー・ミケ・キキ・ピピ・ポチ・ヒサエ6匹(人)。

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短縮版にはポチは登場しませんので「ポチのおはか」は上手く消されています。
しかし短縮版では、そのせいで墓の位置が不自然に。



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マコが何らかの形でヒサエさんを殺した、と考えられるのが普通な、短縮版の終盤ですが…。
それがオリジナル版では、ちゃ~んとハッキリ犯人の姿が描かれています。


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ギャ~ッ!!
ヒサエさんを殺した真犯人は、なんとあの『タカシちゃん』だったのでした…。

このコマが本当に良くできているため、短縮版でココがカットされているのは大変勿体ないです。この後ですが、どちらにしても完全版・短縮版共にヒサエさんは殺され、例のオチに繋がるわけです。


■推測・『短縮版』収録の事情
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短編を纏めた中公愛蔵版『藤子不二雄ブラックユーモア短篇集』には少なからず未収録作品が存在しています。『わが分裂の花咲ける時』や『田園交響楽』等が当てはまるのですが、短編集第2巻の初版発行時点では、『禁じられた遊び』も未収録で、それ以前に『禁じ―』は『ぶきみな5週間』とは何の関係もない作品でした。この時点での未収録の原因は、('80年代末の時点で)「内容が過激だったから」と思われます(『わが分裂―』や『田園―』、『シンジュク村大虐殺』等も同様?)。
しかし、運のいいことに(?)元々収録されていた『ぶきみな5週間』シリーズ(『少年キング』掲載)の第1話『毛の生えた楽器』が、当時激しくなっていた黒人差別問題の影響にを受け、中公の自主規制ということで第2刷以降、収録から外されることになりました。
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ですが『ぶきみな5週間』は全5話のシリーズもので単行本のタイトルにもなってますし、1話分空いたまま『4週間』というわけにもいきません。ですので『ぶきみな―』のテーマに合った、穴埋めにできる作品を、未収録作品の中から持ってくる必要があったわけです。

…で、結果選ばれたのは本作『禁じられた遊び』だったということですね。頁数の都合上10頁に短縮する必要があったのですが(『毛の生えた楽器』削除で開いた穴は10頁)、それが逆に、収録のネックとなっていた『タカシちゃん』登場シーンをカットするのにも丁度良かったわけです。
あと第2刷出版の際に、『盲滅法の男』という作品が『一本道の男』というタイトルに改題されています。


…といった事情で『禁じられた遊び』短縮版が制作されたのではないか…と推測してみました。
『完全版』の怖さは本当にすさまじく、この暑い夏には丁度いい(?)怖さですので、もし奇想天外社版『ビゲ男』を見つけられた場合は即買いがオススメです。

では次回。
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by fujiko-kei | 2008-07-24 22:38 | 初掲載と読み比べ