パイロット版『オバQ』を観た!!
2009年 09月 21日
スタジオ・ゼロ制作のこのフィルムですが、欧米風かつSF風の都市を舞台に『オバQ』の物語が展開されているという大変異色なもの。
フィルムは現存している模様ですが、当方で確認できた限りでは現在まで、NHK-BS2の特集『集まれ!夢のスーパーヒーローたち!夢の工房(1)藤子・F・不二雄の世界』(1993年4月6日)と、NHK教育で放送された藤本先生の追悼番組『ETV特集 こんなこといいな できたらいいな ~藤子・F・不二雄の世界~』(1996年10月1日放送)の2番組で断片的な映像が紹介されただけにとどまっています(後者は再放送も行われていたようです)。
しかしその放送から10年以上が経ち、現在web上で見ることができるのは「パイロット版を見た」という情報のみ…。「未来都市が舞台」、「Qちゃんがおっさん声」といった断片的な、半ば伝説のような噂だけしか知ることができませんでした。
しかし今回初めて、追悼番組の方で放送された『オバQ』パイロットフィルムの映像を見ることができました…。
これがパイロット版『オバQ』だッ!
顔色悪いです。
体色がグレー…。
目が白いのがお分かりいただけるように、フィルムのテレシネ具合や劣化具合でグレーになっているのではなく、初めからグレーの色指定が行われていたようです。
伝説となっていた「声」ですが…予備知識があってもこれにはビックリ。
見事に「爽やかな好青年の声」で喋ってくれてます。
誰に似ているかというと例えにくいのですが、「きれいなジャイアンが喋りそうな声」を想像していただければ丁度いいかと思われます。
正ちゃんはどうなっているのかというと…なんとなく手塚漫画に出てきそうな顔と服装になっていました。これがSF風…なのでしょうか…!?
実際に放送されたアニメ旧『オバQ』では、正ちゃんの髪型は七三分けのような感じが基本なのですが、こちらはスネ夫型といいますか、ややリーゼント気味です。
声は女性が演じていましたが、特に違和感はありませんでした。
Qちゃんと太田さん(?)。太田さん宅では、何やらパーティーが行われているようです。
キャラの顔を見てみると、どこかカートゥーンっぽい顔になっているような。太田さんに関しては、昔のトリスウイスキーのCMにでも出てきても違和感ないと思います。
夜の街を飛ぶQちゃん&正ちゃん。
映像を見る限り欧米・SF的な街ではあるものの、そこまで未来都市というわけではないようです。
太田さん宅(右画像)は、いかにも'50~'60年代っぽいアメリカンンティストな一軒家でした。
さて、非常に気になるパイロット版の内容ですが、映像から読み取れるのは…。
「Qちゃんが太田さん宅の壁塗りをして小遣いをもらう」
「太田さん宅でパーティーが行われている」
「夜の街を飛行するQちゃん&正ちゃん」(←ラストシーンに相当する場面?)
くらいのものですので、全く内容が読めません。原作付きのエピソードなのでしょうか…?
番組で使用された映像の元になったフィルムは、恐らくかなり前(製作当時?)に焼かれたものと思われます。フィルムの状態は、細かい傷が多数+(制作当時からそうだったのかもしれませんが)映像が若干ボケ気味といったもので、あまり良好な状態というわけではないようです。
(2011年)現在、パイロット版が最後にTVで流れたと思われる、藤本先生の追悼番組の放送から14年、パイロット版が制作されてからは45年が経っているわけでして、フィルムの劣化が進む前に是非とも映像を救い出していただきたいと思います。
追悼番組では、実際に放送されたモノクロ版『オバQ』の映像も数カットだけ流れていました。
左画像のものはどの回か不明ですが、右画像は第12回Bパート『コレクションの巻』('65年11月14日放送)で、Qちゃんが、パパが集めている石にイタズラするシーン。
「パイロット版『オバQ』」製作の経緯は、TBS主導の「オバQ国際化プラン」によって作られた、TVの企画とは関係無しにスタジオ・ゼロ立ち上げ時に製作した…など諸説ありますが、最後に、番組で流れたパイロット版制作にまつわる番組司会者の質問と、安孫子先生の回答を書き起こしましたので、ご覧ください。
Q:大変珍しいフィルムなんですが、パイロット版は勿論本放送はされていないんですが…非常にアメリカ的な舞台でパイロット版が作られたんですね?
A:そうですね。はい。『オバQ』がテレビになったのは(昭和)42年だと思いますけど、恐らくその前のパイロット版なんですね。
Q:どうして、ああいう生活像が…?
A:そうですね…結局あの頃はアニメは、それこそ手塚先生の『鉄腕アトム』とかSFが殆どで、こういう生活ギャグマンガってのはアニメに無かったんですよ。それで恐らく作る方では、いわゆる毎日の、こう日常的な背景だと、ちょっとこれは受けないから、バックをちょっとアメリカっぽくしようとしたんだと思うんですよ。
Q:なにせ憧れの生活を?
A:その方がなんかこう、見てるお客さんに受けるんしゃないかと思って、ええ。
Q:藤本さんは、どういう風におっしゃってたんですか?
A:僕も藤本君も、これじゃあね、僕らのオバQじゃないから…背景は、もう絶対大事なんだから、もう、それこそ四畳半が出たり、空き地が出たり土管が出たりするような背景じゃなきゃヤダって言うんで、これはキャンセルして、実際放映されたのは原作に沿ってるわけです。
もうひとつ、『集まれ!夢のスーパーヒーローたち!夢の工房(1)藤子・F・不二雄の世界』で放送された藤本先生へのインタビューが、K.Y,Tsukikage様の『藤子・F・不二雄の世界』内『藤子F談話録』に掲載されていましたので、引用させていただきます。
Q:当時、スタジオゼロでは鈴木伸一さんくらいしかアニメの専門家はいらっしゃらなかったということで、その辺はいろいろご苦労なさったのではないでしょうか?
A:ええ、もうレクチャーを受けながらの初めてのアニメ体験で、だから、パイロットフィルムを作ったといっても、全然記憶にないんですよね。
中略
Q:オバQにはパイロット版もあるんですが、随分ハイカラな、アメリカ漫画を想わせるような映像ですよね。
これは(オバQを)海外に輸出なさるということを考えていらっしゃったんでしょうか?
A:といいますより、国産で生活ギャグ漫画のアニメ化ってのはなかったわけですよ。
こっちとしても手探りで、見当がつかなくって、普通の雑誌に描いた漫画をそのまま動かしてそのままセリフを喋らせて、それでギャグがギャグになるのかどうか。
ついやっぱり、イメージとしまして、(パイロット版では)向こうのアメリカ漫画みたいな感じが雰囲気に入っちゃったんですね。
で、これはこれでね、結局空振りにおわっちゃったんですよ。
だけど、別に後から依頼が来て、改めて作ったときに、最初に向こうの制作者側からいわれたのが、これは是非輸出しないと採算がとれない、無国籍映画にする、というんですね。で、畳敷きはダメ、正ちゃんのうちには自家用車がある、和服はダメ、下駄履きもダメ。
今思えば、パイロット版の経験もあったんでしょうね、やっぱりそれは何か違うということで、漫画そのものが日本の風土に密着して生まれたものですから、それは困るので、それだったら止めてくれ、ということで、すったもんだのあげく、結局、日本的なオバケの漫画を作らせて貰ったと。
結果的にそれはよかったと思うんですけどね。
(2011.02.07修正)